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イノベーションのヒント:HBR8月号より

2013年04月13日 10:11

ハーバード・ビジネス・レビュー8月号に非常に興味深い論文が2本ありましたので、紹介したいと思います。
1つ目は「模倣からイノベーションが生まれる」(井上達彦著)です。
 この論文では、「画期的、独創的といわれる製品やサービスであっても、その誕生過程には模倣のプロセスがあるものだ。」と論じ、アップルやニトリなどの事例をあげて説明しています。
イノベーションの象徴ともいわれるアップルの事例では、初期のPCマッキントッシュのグラフィカル・ユーザー・インターフェースやマウス操作の実現はゼロックスのパロアルト研究所の開発を模倣し、iPodのデザインは、MP3プレーヤーがモデル、コンテンツプラットフォームのiTunes Music Storeの立ち上げもNTTドコモのIモードが参照されたと言われています。アップルは模倣が上手な企業で、実際、故スティーブ・ジョブズ氏も、「素晴らしいアイデアを盗むことに我々は恥を感じてこなかった」という言葉を残しています。もちろん、このようなアイデアを考えるだけでなく、実際に製品化したり、音楽コンテンツを配信する仕組みを作り上げたりするのは、並大抵のことではないとは思います。
また、ニトリの事例では、ニトリホールディングスの創業者であり社長である似鳥昭雄氏の言葉として「発明は模倣の集積だ」をあげ、アメリカのチェーンストアから、 ①ライフスタイルをそのまま提案する展示方法、 ②200店舗を超えるチェーンストアで、標準化と効率化を高い水準で実現している、この2点を模倣しようと決意したことを紹介しています。もちろん実現するのはたやすいことではなかったのですが、最終的に海外に自社工場を持ち、そこでの品質管理を徹底するために、自動車メーカーの広州ホンダの社長をヘッドハンティングし、それまで行っていた、完成してから検品し、不具合を直すという手順から、高性能な検査機械による材料からの事前チェックを行うようにプロセス変更をしたとのことです。さらに、自動車メーカーで長年培ってきた製造でのノウハウ(組立時の部品や工具の作業位置を誘導するための「治具」導入など)を駆使し、完成後のバラツキをなくし、検品・検質・検量を不要にしたのです。このようにして、家具業界において類を見ない低価格・高品質のバリュー・イノベーションを実現したとのことです。
これらの事例から学べることは、「イノベーション」の源泉は、今まで誰も考えなかったことを生み出すことがすべてではなく、アップルのように既にあるアイデアを、さまざまな組み合わせから、新しい商品やコンテンツサービスも含めた新しい提案を行うことであったり、ニトリの例からは、業種の違いを超えて様々なプロセスを模倣したりすることにより自らの「イノベーション」が創生できるということです。
 2つ目の論文は、「ひらめきは組織的に生み出せる」(ロベルト・ベルガンディ著)です。
 この論文では、重要なことは、新技術を他社に先駆けて開発することではなく、その新技術が切り開くであろう未開拓市場の巨大さに最初の気づくことであり、任天堂、アップル、スウォッチの事例をあげて説明しています。また、これは独創的な天才がある時突然思いつく直観的なひらめきではなく、企業が戦略的・組織的に実現できるものであることを、組織的活動としてフィリップスを例にあげて説明しています。製品の事例としてあげている任天堂のWiiやアップルのiPod、スウォッチの低価格クォーツ時計などは、当該新技術を最初の導入した企業ではなかったが、最も有意義かつ最大の利益を生み出せるような形にする方法を明らかにしたと紹介しています。これらの例はすでに様々な文献で紹介されていますので、皆様もよくご存じだと思います。
新たな技術が出現すると、ほとんどの企業は単なる「技術の置き換え」を考え、既存の顧客ニーズへの適切な対応を検討します。しかし、新しい市場を開拓していける企業は、新たな技術により、新しい価値を創出できる製品やサービスを考え、顧客の潜在ニーズへの価値提供を考えます。
 企業が戦略的・組織的に後者を行っている例としてフィリップス・エレクトロニクスのAEH(医療環境設計)システムを紹介しています。フィリップスでは2001年に、数多くの新しい技術について、その潜在的な価値がほとんど活用されていないと判断し、新技術を使って、現在我々が提供しているよりも価値があると「顧客」が考えるような新しい製品やサービスを開発するためにフィリップス・デザイン社に託したそうです。新しい技術を利用した新製品開発の可能性を探るべく20を超えるプロジェクトを立ち上げ、その成果の一つがAEHシステムの開発です。当時、フィリップスはMRIなどの医療用画像診断技術の性能競争でトップを走っていましたが、性能向上による優位性が失われつつあることに鑑み、新しい方向性を探りました。多くの患者が不安を感じ、特に子供には通常、鎮静剤が投与されていたことに着目し、AEHはLEDディスプレイ、アニメ動画、RFIDセンサー、音響制御システムなどの複数の技術を駆使し、患者がリラックスできる環境を作り出したのです。たとえば、小さな子供に対し、アニメのキャラクターが宝物を手に入れるため、海に潜って子供にも、じっと息を止めるように言い聞かせるのです。検査の間、このような誘導をタイミングよく行うことにより、快適性の向上だけでなく、検査時間が15~20%短縮し、鎮静剤の投与数を30~40%削減、検査による放射線量も25~59%削減できたとのことです。フィリップスはこの取組による知見を整理し、その後の技術価値の評価基準として使用しています。また、このような着想を得るためにインタープリターという自社製品のユーザーについて、自社と同じ状況の下で、自社とは異なる視点から調査・研究する専門家に最初のステップを検討させています。このインタープリターは、社内の人材だけでなく、社外の専門家、それも学者や専門家だけでなく、他の業界の関係者や補完的技術のサプライヤーであったりもします。
この方法は極めて有効で、先のMRIの事例におけるインタープリターの一人は、子供病院の臨床心理士であり、病院で治療を受ける子供への痛みの影響を専門的に研究している人物で、子供が経験した病院での最も恐ろしかった経験として鎮静剤の注射をあげ、その点にいかに配慮すべきかを提案したそうです。彼の研究から得られた知見で加えられたAEHとして、アニメの上映と人形用CTスキャナーがあります。この人形用CTスキャナーは、子供の患者が検査の前に実際に人形をCT装置に自分で入れてスキャンし、恐怖心を和らげるとともに、人形を動かすと画像がゆがむことから、検査の間はじっとしていることが大切だと学ばせることができます。インタープリターは、その道の権威である必要は無く、若く先進的な研究者で構成される才能豊かなチームに任せる方が効果的な場合があるそうです。
以上、ご紹介した2つの論文からの学びとして下記の3点を上げたいと思います。
(1)世の中にすでにある技術やアイデアをうまく組み合わせたり、別の分野に応用したりことで新たな「イノベーション」創出が可能となる
(2)新しい技術は、従来の製品の改良や機能向上を検討するだけでなく、優れた顧客の経験価値を作り出すために利用することである
(3)優れた顧客の経験価値を検討する際に、自社だけでなく社外も含めて幅広い人材を集め、自社とは異なる視点から調査・研究する専門家に任せることである

 このように、「イノベーション」の創出は、スーパーマンのような傑出したイノベーターが生み出すだけでなく、既存の技術やアイデアを模倣や組み合わせを駆使したり、顧客の新しい経験価値(ユーザーエクスペリエンスデザイン)を生み出して新しい市場を創出したりすることも示しており、組織的に実現可能なものであることが伺えます。イノベーションを創発支援する仕組みや組織風土などを作ることといったことは、人材開発や組織開発などを行っている部門が多いにイニシアチブを取り、プロアクティブに仕掛けをしていくべきことではないでしょうか。
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